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インターネット投資会社の登場

1999年12月1日[コンセンサス]より

どこに行っても「ソフトバンク論」
 今どこに行っても「ソフトバンク論」である。

 私は2ヵ月に一度くらいの頻度で日本に帰国するが、日本の情報技術産業の経営者や言論界の論客らの関心は「ソフトバンクとは何か」である。

 ソフトバンクのここ数年の「戦略のあらまし」はざっと次のようなものだ。

『自社(ソフトバンク)株式上場益を原資に、「時代の大きな流れ」に合致した米国有望ネット企業(Yahoo!等)へ、早い段階で大胆な投資を行なう。投資先ネット企業の日本法人を作り、日本市場で同じ事業を展開する。その日本法人の経営が軌道に乗った時点で、その日本法人を日本の株式市場に上場する。その日本法人と競合する日本のベンチャー企業があれば、競争して叩き潰すのではなく、早い時期にその事業を始めたことを高く評価する証に、高額での買収を持ち掛ける。日本での早期株式公開という構想を実現するためには日本の株式市場インフラがまだ十分に整っていないと判断するや否や、ナスダック・ジャパン構想を打ち立て、証券市場の大競争時代を創り出す。一連の活動によって得られた諸々のキャピタルゲインを次なる日米の有望ネット企業に再投資する。こんな循環は、「時代の大きな流れ」と合致した時しかできない。それが今なのだ』

 そして今やソフトバンクの時価総額は6兆円を超え、時価総額極大化経営に邁進している。一方で、99年9月期の連結決算で最終損益は赤字を計上。孫社長は「会計上の利益には興味がない」と言い切る。

 日本で「ソフトバンク論」を議論していつも思うのは、ソフトバンクにはあまりにもさまざまな側面がありすぎて、本質的議論になかなか収斂しないということだ。孫社長の個性、北尾常務の辣腕、日本における新興急成長勢力ゆえの特異性や苦悩、日米インターネット産業の時間遅れの活用、株式市場創設といった「公的なるもの」への関与の是非、財務上のある種の不透明性など、「ソフトバンク論」の論点はなかなか噛み合わない。

 私は、時代の大きな文脈から見て、ソフトバンクとはインターネット産業の勃興と共に米国で登場した「インターネット投資会社」の一つ(もちろん大成功を遂げたものの一つ)であり、それ以上でも以下でもないと考えるのが自然だと思っている。

 そこで本稿は、「ソフトバンク論」の変化球として、米国で勃興する新興勢力「インターネット投資会社」にスポットライトを当ててみたいと思う。

CMGI社は事業会社か投資会社か
 1994年まで、何の変哲もない事業会社だったCMGI社は、開発していたインターネット関連技術を他社に売却して得た数10億円ほどの利益を元手に、1995年にネット企業への投資を始めた。「@Ventures」という名の投資ファンドを作った。「にわかベンチャーキャピタル」である。

 ベンチャーキャピタル(VC)とは、起業家にとっての「失敗しても返さなくてもいい金」を提供する代わりにそのベンチャー企業の株式を持つ。CMGI社は、95年、96年、今からは「インターネット・ゴールドラッシュ期」として振り返るべき2年間に、アーリーステージの「まだ海のものとも山のものともわからないベンチャー企業」の株式をたくさん手にした。

 たとえば、95年に、検索エンジンのLycos社に200万ドル投資する見返りに、同社の株式の80%を取得。96年には、コミュニティ・サイトのGeocities社に約600万ドル投資する見返りに同社の株式の33%を取得した。

 たとえばこの2つの投資が何をCMGI社にもたらしたのか。

 CMGI社が紆余曲折を経て現在に至るまで保有するLycos株17%の時価総額と、Geocities社がYahoo!社に売却された際に得たキャピタルゲインの合計は、ネット株の乱高下を計算に入れて少なく見積もっても約10数億ドルであった。

 つまり、合計約800万ドルの投資が、数年後に10数億ドルに化けたのである。100倍から200倍の倍率である。倍率以上に、差額を考えてみたらいい。少なくとも10億ドル以上の資産、日本円で言えば1,000億円以上の資産が、全く無から生み出されたことになる。この意味は大きい。もちろん投資対象ベンチャーが失敗した結果戻ってこなかった資金もあったろうが、これほどの「ホームラン」が続けば、そんなものは気にする必要もない。

 こうして得た莫大な資金を、より戦略的に再投資することにしたCMGI社は現在までに、図に示すようなネット企業を傘下に収めることとなった。

図 CMGI社のポートフォリオ企業群

 99年7月には、19億ドルを投じて、検索エンジンのAltavista社(Compaq社の事業子会社)の83%の株式を取得。また、総額16億ドルを投じて、インターネット広告のFlycast Communications社、AdKnowledge社、AdForce社を買収。投資のスケールもぐっと大きくなっている。

 VCは、自らが投資した複数のベンチャー企業を「My Portfolio Company」と称するが、CMGI社は、「CMGI's Portfolio Company」間にシナジーが発生するような投資対象を選び、そのシナジーを追求させることによって、投資対象ベンチャー企業を成功に導いていくという意味で、「事業会社の経営」に近い視点を有している。

「VCと事業会社のどちらを志向するのか」という日経のインタビューに答えて、CMGI社のCEO、David Wetherell(デビッド・ウェザレル)氏は、次のように答えている。

「よくVC、投資会社と称されるが、創業来ずっと事業会社だ。我々のベンチャー投資には2形態あり、長期戦略に基づくソリューション的な事業には直接出資・育成し、どちらかと言えば自ら急成長する企業にはVC部門で出資する。ビジネス開発・育成部門とVC部門の両翼から相乗効果を引き出し、出資企業の成長を加速させるのがCMGIのビジネスモデルだ。すべてを事業会社として手がけると、規模の巨大化につれて革新的な技術、アイデアに疎くなる。我々は事業会社としていくら大きくなっても、月に2,000ものビジネスプランが舞い込むVCを持つことで、最先端技術との接点を失わない。これは非常に重要なプロセスであり、このビジネスモデルは規模が大きくなるほど強力になっていく」(日経産業新聞・99年9月14日)

 ウェザレル氏が「事業会社」を自称するのは自由だが、常識的には「事業会社的なスケールの大きな戦略的視点を持つ大型投資会社」と考えるのが自然だろう。

 結論から言えば、

(1) 幸運も含めた何かの理由で、インターネット・ゴールドラッシュ期に投資したベンチャー企業の株が大化けして、1,000億円単位の巨額の資金を手にする。
(2) その巨額の資金をネット企業に再投資する際に優れた戦略性を持ち、投資対象企業間のシナジーを追求する。結果として、資金の巨大さと戦略性という2つの理由から、小さなVCや投資会社に比べて「全く違う価値」を創出する存在となる。
(3) その結果、もともとやっていた事業など吹き飛んでしまうほどの存在感を「投資会社」として有するようになる。
ということだろう。

 CMGI社の(1)(2)(3)の道筋を、ソフトバンクに当てはめて考えてみれば、ソフトバンクの現状を極めて明解に理解できるであろう。

 CMGI社におけるLycos社、Geocities社が、ソフトバンクにおけるYahoo!社であり(1)、ソフトバンクが「日本市場」を明確に意識している点は異なるが、(2)の観点についてはおおむねCMGI社と似ている。そして、ソフトバンクがもともと手がけていた「パッケージソフトの流通事業や出版事業」など孫社長がもう「興味がない」と言い切ってしまっても構わないほど、その存在感を「投資会社として」有してしまったゆえ、ソフトバンクは投資会社化を鮮明にする昨今なのである(3)。

Internet Capital Group(ICG)社とidealab!社
 少しスケールは小さいが、CMGI社以外にも注目すべき「インターネット投資会社」が米国には存在することをご紹介しておこう。

 一つはInternet Capital Group(ICG)社。もう一つはidealab! 社である。

 1996年に設立されたICG社は、B to B(Business to Business)のeコマースにフォーカスした「インターネット投資会社」である。

 約3年間で、総額2億ドルの資金を投じて株式を取得した36社のベンチャー企業の時価総額は約20億ドル(上場したVerticalNet社のような企業の時価総額に加えて、未上場ベンチャーの企業価値も加算)。これから本格化する「B to B」eコマースの有望企業の株式を保有しているという期待感から、ICG社自身の時価総額(ICG自身が上場しているから)も、その5倍の100億ドル近辺で推移している。

 「投資会社」ソフトバンクが保有する株式の時価総額が約3兆円(米Yahoo!株比率が約3分の1)なのに対して、ソフトバンク自身の時価総額が約6兆円と2倍近辺で推移しているのと同じ現象と言える。

 idealab!社も1996年設立。創業者はBill Gross(ビル・グロス)氏。グロス氏が、VCにとっての「資本」の代わりに、アイデアという「脳本」を次々に創出し、そのアイデアに基づいたベンチャー企業を創業させて上場を目指す(その意味で、idealab!社はインキュベータと称される場合が多い)。すでに20社のベンチャーを世に送り出しているが、今年のクリスマス商戦で話題のeToys社や、パソコン無償配布という斬新なアイデアで登場したFreePC社は、idealab!社の産物である。

 アイデアとインキュベーションの対価に対象企業の株式を得るところからスタートしたidealab!社だが、すでに上場企業を3社送り出したことで、CMGI社やICG社にとっての「資本の元手」に相当する資産はできた。そしてその元手でつい最近、ICP(idealab Capital Partners)社という投資会社を設立した。

 数年後のidealab!社グループは、現在のソフトバンク、CMGI社、ICG社に並び称される「インターネット投資会社」となっているかもしれない。

 「インターネット投資会社」を、「バブル」とか「錬金術」と称して「製造業とは無関係の虚業」と片づけてしまうのはたやすいが、やや短絡に過ぎる。「インターネット投資会社のみがインターネット時代の担い手」などと言うつもりはないが、バブルと言って無視してしまうことなどできない「新しい存在」であることは認識すべきなのである。

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