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米国大企業揺るがす「B2B」の現実
ベンチャー群雄割拠で巨額資金調達

2000年3月20日[日経ビジネス]より

 昨年12月頃から、米国大企業各社による未公開ベンチャーを投資対象とした大型ファンド設立が相次いでいる。IBMとアンダーセン・コンサルティングが500億〜1000億円規模、システムインテグレーション大手のEDSが1500億円規模、フォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)もファンドこそ創設していないが、巨額のベンチャー投資を基本戦略に組み入れ、積極的に動き始めた。

 事業会社が持つベンチャー投資ファンドは、情報技術(IT)産業の覇権を競うマイクロソフト、インテル、シスコシステムズといったほんの一部の例外を除いて、その規模数十億円が上限というのが、つい半年前までの常識であった。研究開発機能の補完と情報収集という目的で出せる金額はそれが限度だったし、普通の大企業にとってそれ以上の額の投資を行う動機は全くなかったからだ。

 しかし、今その規模が1ケタアップした上で、産業全体に波及しつつある気配なのだから尋常ではない。大企業がこれだけ巨額の現金を用意して、ベンチャー世界ときちんと向き合おうとするのは歴史上初めての事なのである。

あらゆる財のための新しい取引所
 巨額ファンド設立というこの戦略的動きを、「ニューエコノミーに乗り遅れまいと、事業会社までがキャピタルゲイン狙いを本格化させた。ネットバブルも最終段階さ」と単純に納得して終わりにしてはならないと思う。

 その真の戦略的理由は「B2B本格化への対応」ということに尽きるからだ。B2Bとは「Business to(2) Busi-ness」の略、つまり企業間ネット商取引のことである。もっとも「備品のネット自動発注」とか「部品・資材のネット調達」といった手垢のついた言葉の組み合わせからでは、B2Bの真のイメージを膨らませようがない。

 今なぜB2Bなのか。私は、B2Bの最新状況は、「B2Bエクスチェンジ」というキーワードを取っ掛かりに理解するのがよいのではないかと思う。「B2Bエクスチェンジ」の「エクスチェンジ」は、「ストックエクスチェンジ」(証券取引所)における「取引所」という意味とほぼ同義だ。

 鉄鋼資材、化学材料、エネルギー、自動車部品といった生産要素から、文房具のような事務処理用備品に至るまで、企業活動で調達されるあらゆる財のための「新しい取引所」のようなものが、財の種類だけたくさん、サイバースペース上に新設されるイメージが、「B2Bエクスチェンジ」である。

 個別の企業間商取引と違い、すべての売り手とすべての買い手を「取引所」に統合することによって、その時その時の需要と供給の変動から取引価格が随時決定されるようになる。まさに経済システム全体の「証券取引所」化を促す動きなのである。当然「B2Bエクスチェンジ」が財の種類だけできれば、大企業のよって立つ仕組みそのものが根本から崩れてしまうわけだ。

大企業は大型ファンド設立し対応
 2月25日、GM、フォード、ダイムラークライスラーの3社が「部品調達ネット統合」(日本経済新聞の見出し)を発表して大きな話題を呼んだ。

 自動車部品の「B2Bエクスチェンジ」は大企業連合が機先を制したが、ありとあらゆる財の周辺で、「B2Bエクスチェンジ」の創設を目指すベンチャー群、そのための基盤技術を開発するベンチャー群、「エクスチェンジ」を中核にした新しいサプライチェーンを様々な角度から見つめて事業化を試みるベンチャー群が、うようよと湧き出て、それぞれが直接金融市場からかなりの額の資金を調達しつつうごめいているのが、「米国B2Bの現実」なのである。大企業から見れば、機会と脅威の両方の意味で、自らの企業活動の土台を揺るがすところにまで、初めてベンチャー群が姿を現し始めたわけで、その衝撃が大型ファンド設立という動きに結びついたのである。

掲載時のコメント:前回(2月21日号)掲載の「もしソフトバンクが米国で上場したら」には読者から多数の反響が寄せられた。本人の元にも「懐かしい知人からたくさんのメールが届いた」という。

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