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シナジーなき多角化に成功したGE
「現代の謎」への市場の判断は?

2001年1月15日[日経ビジネス]より

 「事業の多角化は投資家のレベルでできるのだから、企業は自分が得意とするたった1つのことをやってくれていればいい」

 この考え方は、米国株主志向経営のエッセンスである。投資家から見た時、企業は、投資信託(ミューチュアルファンド)と同一線上に、投資対象として存在する。投資信託は、投資企業のポートフォリオを瞬時に組み替えることで、思い通りの多角化を実現できる。よって、組み替えの対象となる企業自身が、自ら多角化する必要はないという考え方である。

専業化進んだ米IT産業
 企業の多角化が唯一正当化されるのは、一企業が持つ複数の事業の間に何らかの関連性と強いシナジー(相乗効果)がある場合に限られる。経営者はシナジーが曖昧な場合にも多角化を目指す傾向にあるが、そうした多角化は株主の観点からは正当化されない。

 多角化に関するこの考え方は、膨大な経営実証研究によって裏打ちされている。日本では奇異にすら感じられるが、「投資家主導・株主志向経営という思想的基盤を強く持つ米国経営学の常識」として、既に教科書にも書かれ、大学でも教えられている。

 米国情報技術(IT)産業の1990年代は、その「米国の常識」が指し示す「企業の専業化」がぐっと進んだ10年でもあった。現代IT産業の覇権を競うマイクロソフト、シスコシステムズ、アメリカ・オンライン(AOL)といった企業群の時価総額は巨大だが、いずれも「自分が得意とするたった1つのこと」をやり続けているだけだ。IBMだって「自分の得意なことしかしない普通の会社」になってしまったし、AT&Tも先ごろ4分割を決定した。

 ではそんな中、なぜゼネラル・エレクトリック(GE)だけが、シナジーが全く存在しない非関連事業の多角化を達成し、しかも市場の信認を集め、世界最高の時価総額を維持しているのだろうか。この問いこそが、米国経営学の常識の「喉に刺さった小骨」のような謎であり、GEやジャック・ウェルチ会長兼最高経営責任者(CEO)を考える上での本質である。

 日本企業は雇用を最重視するゆえに成長を志向し、成長を志向するためには専業特化では苦しいから多角化したい。だから、多角化を達成しつつ時価総額を上げるGEの経営を学びたい。多くの日本企業経営者がウェルチ氏を信奉するのはこんな論理ゆえである。

 しかし「なぜGEだけが」という問いの答えは米国でもまだ出ていない。

 経営学者がしばしば指摘するのは、「業界1位か2位でいなければならないというルールによって、業績的に足を引っ張る事業が存在できない仕組みになっている」ということだ。加えて、1つの失敗ですら株価大幅下落につながるここ数年の市場環境において、経営的瑕疵が1つもなかったことが幸いしているとも言えるだろう。

市場の監視力上回るウェルチ流
 突き詰めて言えば、「GEは説明不能の例外として、すべてをまとめてウェルチ氏に経営してもらっている方がよい(市場の監視力をウェルチ氏の経営力が上回っている)」と、市場が今のところ判断しているということだ。

 2001年は、米国景気後退の足音が聞こえてくる中、ウェルチ氏最後の大勝負であるハネウエル買収後のマネジメントという難事に加え、ジェフリー・インメルト氏へのCEO交代も予定されている。

 果たして「市場の判断」に変化はあるのだろうか。あるとすれば、早晩GEも分割専業化を余儀なくされていくのであろう。ひょっとしてウェルチ氏は、そんな「市場の判断」の将来変化も予想した上で、「自分が取り仕切っている今」しかできないハネウエル買収によって、分割後事業会社の競争力強化を狙ったのであろうか。

 「現代の謎」GEに何が起こるのか。2001年も要注目である。

掲載時のコメント:「難問が多く、休みなく考え続けたような気がして、軽い疲労感が残っている」。IT革命の進展とネットバブル崩壊が同時に起き、フロンティアに大変化が生じた2000年を振り返っての述懐。

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