ミューズアソシエイツのホームページへ パシフィカファンドのホームページへ JTPAのホームページへ 梅田望夫
the archive

2001年、IT産業「試練の調整」へ
米国の熱狂冷め新しい可能性模索

2001年7月23日[日経ビジネス]より

 米国情報技術(IT)革命は「試練の調整」の真っ只中にある。1995年頃から始まったネットブームの熱狂は冷め(1)、旧秩序破壊エネルギーは鎮静化し(8)、米国社会全体に流れる時間が少しゆったりとしてきた。

 バブルこそ弾けたが、ITの可能性が指し示す方向にある「新しい秩序」の構築スピードを、再び私たちのコントロール下に置けるようになったという意味で、「人間の知恵」が働いたのだと実感する。振り返れば、99年から2000年初頭にピークを迎えた「加速されたスピード感の中で新しい秩序を構築する競争」の苛烈さに、私たちは耐えられなかったのである。

大きかった「負の遺産」
 「旧来型システムの非効率を一気にたたき壊して新しい秩序を作るのだから、そのために不可欠な通信インフラには、どれだけ投資しても足りないはず」――1996年の連邦電気通信法改正による規制撤廃を含め、こんな価値観を前提にIT革命のフロンティアを疾走してきた米国は今、その前提が崩れるとともに、通信セクターに大きな「負の遺産」を抱えてしまったのである(2)。

 「負の遺産」の大きさが明らかになるにつれ、IT市場「縮小の連鎖」が世界規模で発生することになった(3)。

 2000年4月のバブル崩壊の反省から、新規株式公開(IPO)の窓は閉じた。「可能性だけで株式公開できる」から「株式公開前に利益を出すべし」へのルールの転換がちょうどこのIT失速期と重なったため、かなり有望な未上場ベンチャー群が今も苦境の中であえいでいる(4)。そして、大企業だけが「IT化投資を牽引する最後のよりどころ」(5)というところがつらい。「試練の調整」にはかなりの時間を要する公算が強くなってきた。

米IT産業の覇権争いは一段落
 ところで、マイクロソフト分割破棄(7)も含め、米IT産業の覇権闘争は一段落した。ここ数年の激しい闘争の傷を癒した企業から順に、さらなる寡占化に向けて勝負をかけてくるだろう。米大企業IT化のモデルとしてその経営効率に注目が集まるデルコンピュータが、新しい寡占化競争の先陣を切っている(6)。

 日本に目を転ずれば、日本勢で唯一「攻め」の経営を志向してきたNTTドコモ(9)も、こうした世界情勢激変の中で、これからは「攻め」一辺倒のグローバル戦略は取りきれまい。

 また「大企業のIT化がしばらくは経済を牽引せざるを得ない」というIT革命の大きな流れの中、商法改正案要綱の中間試案が決定された意義は大きい(10)。「企業統治の透明性」こそが「経営陣による合理性追求」(つまりは企業収益向上への圧力)を促し、日本企業のIT化を推進する大きなパワーとなるに違いないからである。

ページ先頭へ
Home > The Archives > 日経ビジネス

© 2002 Umeda Mochio. All rights reserved.