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国内半導体、復興へ2つの選択肢

2002年5月13日[日経ビジネス]より

 1980年代後半に絶頂を極めた日本の半導体産業はなぜここまで衰退してしまったのか。それは、この10年で世界の半導体産業の構造が一変してしまったからである。

 DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)、超小型演算処理装置(MPU)といった大型単品商品や電荷結合素子(CCD)センサーなどのニッチ商品を除き、半導体の産業構造が垂直統合型から水平分業型に移行したことが決定的要因である。80年代には一体化していた設計と製造という2つの機能が分離したことが、日本企業にとっての痛恨だった。

 台湾政府の戦略的な産業育成優遇制度の果実として、ファウンドリー(半導体受託生産会社)産業が90年代に大きく勃興。設計に特化するファブレス(半導体設計会社)という業態も同時に成立したのである。

 資本集約的な製造事業には、土地提供や投資減税といった政府の支援が有効に作用したため、台湾のファウンドリーはぐんぐんと国際競争力を高めた。今、中国が同じモデルで猛追中だ。一方、頭脳集約型の設計事業はシリコンバレー・メカニズム(リスクマネーと資本市場を徹底活用した新事業創出)にぴったりとフィットしたため、米国にはありとあらゆる領域のファブレスが生まれた。

 日本企業は、垂直統合の利が生きるDRAM分野では韓国のサムスン電子、米マイクロン・テクノロジーとの競争に敗れ、MPUのインテルを追撃する力もなかった。その他の事業領域においても、「米国-台湾」による水平分業連合との競争に敗れたのである。

 現在、日本メーカーによる半導体事業再編の動きもあるが、中途半端な合従連衡では、ここ数年を乗り切ることはできても、本格的な復興にはつながらないだろう。産業レベルでかなりスケールの大きな戦略を立てて大胆に実行しなければ、日本の半導体産業の長期衰退傾向に歯止めはかからない。

強みの製造は残すべき
 その成り立ちや強みから考えて、日本の半導体産業の復興を製造事業なしで考えることは難しい。とすれば、戦略の選択肢は2つしかない。

 1つは、日本の半導体メーカーを再編して、「垂直統合の利を徹底追求する大型総合半導体メーカー」を目指す道である。各社が持つIP(知的財産)を集約して、その統合効果を追求するのである。この道を全うするためには、向こう10年の半導体産業の先端技術と新市場を見通しながら、垂直統合の強みが生かせる場所を見いだして大胆に先行投資する「技術についての動物的直感を伴う強い経営リーダーシップ」が不可欠である。私見だが、この道を選ぶなら、米国半導体産業の超一流マネジメントチームをスカウトするべきだ。

 もう1つは、「技術力で勝負できる世界一のファウンドリー」を目指す道である。日本の製造技術と人材の質は今ならばまだ、台湾や中国の上を行っている。各社の製造プロセスが標準化されていないこと、リストラが中途半端でコストが高すぎること、顧客志向から程遠い経営が行われていることの3つが真の問題なのであり、再編後の新会社がこれらを乗り越えることができれば、世界一を目指すことは不可能ではない。

 世界の先端を走る強靭な半導体産業を日本に残すことは、電子立国ニッポンのプラットホームである。そのための再編は政府主導ではなく、あくまでも半導体各社のリーダーシップで推進しなければならない。政府がすべきことは、会社分割税制や研究開発・設備投資に関わる税制を見直し、各社が再編を通して世界ともう一度戦えるための土台を整備することである。

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