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インターネットビジネスは「永久競争」

1999年11月1日[日経パソコン]より

 米国インターネット産業の競争が苛酷さを増してきた。

 ネット株が急上昇し、ネット企業の時価総額が莫大なものとなり始めたのは98年からだった。そしてそれは、ネット時代のビジネスモデルが明確になったと思えたからにほかならなかった。「ネット企業がどうやって金儲けをするのか」の答えが見え始めた時、それまでの茫漠とした不安が解消された気分になったのだった。

 ポータル。98年初頭にこんな言葉が生まれ、たくさんの人を集めるサイトを作れば広告収入が入ってくることが分かった(例:ヤフー)。

 B-to-C(Business to Consumer)のEコマース。98年末のクリスマス商戦では、普通の人が普通の品物をネット上でたくさん買った(例:アマゾン)。

 オークション。これまではほんの一部の蒐集家のための売買システムが、普通の人たちが私蔵するモノ同士の取引きに応用されると、巨大な新市場ができそうなことが分かった(例:eBay)。

 そして今、99年秋、米国ネット産業最前線では何が起きているのか。

ポータルの次に来るものは
 新カテゴリー(ポータル、Eコマース、オークションなど)を創造した旗手たち(ヤフー、アマゾン、eBayなど)を脅かす新事業モデル、新勢力の登場とあくなき競争の再開である。

 例えば「世界中のコンテンツと世界中の人々を結び付ける」ポータルよりも、ローカル情報とコマースを中心とした大都市単位でのポータル(例:チケットマスターオンライン・シティサーチ)の方が事業性が高いと信ずる勢力も現れ、ネット広告についての実証的研究が盛んに進められている。

 従来型メディア(テレビや新聞)との比較においてネット広告の価値が再検証され、ポータルが事業の拠り所とする広告収入の算出方法自身にもメスが入り、広告単価は下がる方向に向かっている。ポータルの事業モデルが、より複雑に、より洗練されていくのも時間の問題であろう。

 アマゾンを脅かす新勢力の代表としては、商品を仕入れ値と同じ、または仕入れ値よりも安く販売する「流通破壊」型新事業モデル(たくさんの人をサイトに集めることで事業が成立するのだから商取引自身は赤字でよいとする事業モデル)で台頭するバイ・ドット・コム(未上場だがソフトバンクが大株主)が挙げられる。

 また最近では、フェアマーケットという有望ベンチャーのオークションサービスを中核に、約100社のネット企業が連合を組んで売買商品情報をシェアする巨大オークションネットが生まれることとなった。莫大な時価総額を築き上げたeBayに対する包囲網が一気にできたことになり、オークション競争が激化の一途をたどることは間違いない。

 「事業モデルが見えた、どうやって金儲けをするかが分かった」という状況に反応して株価が急騰する。よって時価総額も莫大になり、創業者に富がもたらされる(でも複雑なルールがあって、創業者はすぐに株を換金することは許されない)。急騰した株価に見合う新しい価値を付け加えていかなければと、その企業が全力疾走のスピードを上げたところで、新しい事業モデルを提案する新しい挑戦者が、その富に狙いをつけて登場するのである。

 結果として、「あっ、この事業カテゴリーは安定したかな」と思った瞬間から数えて9カ月から18カ月後には、その事業カテゴリー自身が挑戦を受けるという「永久競争」とも称すべきことが起こり始めているのだ。

 数千億円、1兆円単位の半端じゃない時価総額に膨れ上がったネット企業たちは、「この競争から抜け出して一息つくためには、さらに苛酷な競争を仕掛けなければならない」という、とんでもないパラドックスの中に閉じ込められている。98年末から99年初め、アマゾンやヤフーやeBayが、競争から頭一つ抜け出したかな、ちょっと一息ついたかな、と感じたのは、ほんの束の間のことだった。

 100年に1度の米国インターネット革命のフロンティアは、競争が競争を呼ぶ、立ち止まった者など直ちに食われてしまう「野生のジャングル」そのものだったのである。

掲載時のコメント:最近、日本企業の戦略コンサルティングだけでなく、シリコンバレーのベンチャー企業の手伝いもするようになった。そこで垣間見る世界は、ジャングルそのものと言っていい苛烈な世界だった。

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