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新刊書評 「ニート フリーターでもなく失業者でもなく」

2004年10月11日[プレジデント]より


15歳以上25歳未満の若者が1,500万人弱。その約半数の764万人が学生または浪人。フリーターを含む就業者は約4割の573万人。残り、つまり全体の約1割にあたる161万人が無業者。そしてその無業者の中で、就職にも進学にも関心を示さない40万人を「ニート」(NEET = Not in Education, Employment, or Trainingの略)と呼ぶらしい。「学校に行っていない。学校に行こうという希望も、ない。働いていない。働こうという希望も、ない」若者・ニート。現実に働いているフリーター、働く意志を持つ失業者よりも、ニートこそが深刻な問題なのだと本書は問う。

ただ何せ若者全体のわずか2.7%のことだ。「どんな社会にもある程度の比率で不適応者は存在する。その現れ方が時代を反映するだけ」「甘ったれるのもいい加減にしろ」といった嫌悪的反応が、強者たる大人からは出やすい。しかし著者たちのニートへの視線は優しい。ニートを「やる気がなく、生きることに怠慢で、働く気もなく、気楽に親のスネをかじっているだけ」の「社会のお荷物」だと切り捨てて勝手に安心するなと、大人たちに警鐘を鳴らす。

しかし、切れ味鋭く日本社会の変化を解き明かす論考がたくさん書かれる中、本書の特質は「ニートがなぜ増えたのか」という原因の解明に全く意欲的でない点だ。労働市場説、教育問題説、家庭環境説という三つの仮説を一応は紹介するものの、「大事なことは、ニートの原因を分類してわかったような気になることでは絶対にない」のであり、「一人ひとりの状態をまるごと理解しようとすることからしか、すべてははじまらない」と仮説から距離を置く。原因が仮に解明されたところで、その原因を根絶するようなマクロな政策やビジョンが生まれるべくもなく、ニート増大という現実問題の解決には決してつながるまいという諦念が、労働経済学者の玄田有史にあるからだと思われる。

大きな言説の代わりに、著者が高く評価し本書で詳述するのは、小さくても現実的な政策だ。「すべての公立中学校で、すべての十四歳、すべての中学二年生を対象に、五日間の職場体験が続けられている」兵庫県と富山県を、ノンフィクションライターの曲沼美恵は「奇跡のような県」と呼び、この二県で定着したこの政策を全国展開することが、ニート増加防止策として急務だと説く。

小さな政策とはいえ「すべての中学生の就業体験」を実現するには、教師も地域の大人たちも「本気で」子供たちに向き合わなければならない。しかしその「本気」は、「私は教育のためには私財も投じ、命がけで24時間365日使命感を持って、子供たちに向き合う」と語る「カリスマ体育教師の常勝教育」(日経BP社)、「本気の教育でなければ子供は変わらない」(旺文社)の原田隆史のような「本気」までは必要としない。政策として全国展開できる程度の「大人の本気」さえ引き出せれば、子供たちが「五日間にわたって社会の良い大人に出会う機会」を持てて、事態が好転するはずだと言う。

提言が現実的な分だけ、拍子抜けする読者もいることを承知で、本書は書かれている。それは読者に「すっきりとわかった感じ」を与えるのをあえて避けたい著者たちの意図の現れであり、深い危機感と表裏一体をなすものなのであろう。

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