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ポータル巡り企業連合

1999年2月22日[日経産業新聞]より

 ポータル(入りロ、表玄関)という新しい言葉とその意昧について本欄で二回にわたって紹介したのが、昨年の6月から7月にかけてだった。それからわずか8カ月。しかしこの間に、ポータルを巡る事業環境は激変してしまった。

 ポータルとはインターネット上での表玄関たり得るコンテンツ(情報の内容)を用意した、集客能力に優れたサイトのこと。系統としては、ブラウザー・オンラインサービス系のアメリカ・オンライン(AOL)、ネットスケープ・コミュニケーンョンズ、マイクロソフトと、検索エンジン系のヤフー、エキサイト、ライコス、インフォシークとに大別できる

 咋年11月、AOLによるネットスケープ買収(総額42億ドル)が発表されたが、以来、ポータルを巡る大型買収の動きが急となった。

 今年に入って最も驚かされた大型買収のニュースは、1月18日に発表されたアットホームによるエキサイト買収(総額67億ドル)だった。アットホームとはCATV(有線テレビ)網を活用した高速インターネット接続サービスを提供する新興企業。そのバックには、CATV大手のテレコミュニケーションズ(TCI)がいる。そしてそのTCIは、昨年7月、米長距離電話会社最大手AT&Tによる買収が発表されている。

 続いて1月27日、今度はポータル最大手のヤフーが、コミュニティーサイト最大手のジオシティーズを買収(総額39億ドル)すると発表した。コミュニティーサイトとは、ネット利用者間でのコミュニティー形成を促進する一連のサービスを提供するサイトである。

 さらに、2月9日、最後に残っていた独立系ポータルのライコスが、米メディア大手のUSAネットワークス社に吸収合併された。米三大ネットワークの一つNBCもぎりぎりまでライコス買収を検討していたようである。

 この一連の動きは、ポータルが単独事業として存続するのではなく「巨大な複合事業体」における重要な構成要素として位置付けられたことを意味している。

 ではその「巨大な複合事業体」とは何なのか。

 それは20世把に構築された二つの世界インフラ(電話網とテレビ放送網)をしのぐ21世紀の「グローパル双方向情報通信放送インフラ」にほかならない。


 この新しいインフラの構成要素は、高速インターネット通信用物理インフラ(米国では電話とCATVが中心)、高速インターネット接続サービス(ISP、オンラインサービス)、ポータル(コミュニティーサイトを含む)、コンテンツ(主にメディア企業が提供)、eコマースの五つである。

 そして五つの構成要素をもつ「巨大な複合事業体」は、通信収入、接続サービス収入、メディア収入(コンテンツ、広告)、コマース収入のすペてを手にできるから、ネット新時代における「最もおいしい事業」を独り占めできる可能性を秘めている。だからこそ、陣取り合戦が今始まっているのだ。

 この「巨大な複合事業体」を目指し、企業連合を作っての大競争の構図は、2月中旬現在、表に示す通りである。AOLによるネットスケープ買収が引き金になって、ポータルを巡る動きだけがぐっと先行したが、数力月後には表の空欄を埋めるべく、さらなる大型提携が進んでいるに違いない。

 そして大問題なのは、米国企業ばかりがこの大競争の当事者で、日本企業を含めた他国の大手企業がほとんど動きを見せないことである。このまま放置すれば、「気が付いたときには、21世紀の世界インフラが米国企業連合主導ですべて押さえられていた」という事態を迎えることだろう。

編集部注:その後、USAネットワークスとライコスの合併は中止となった。2000年5月にスペインのインターネット接続業者テラ・ネットワークスがライコスを買収した。

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