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アンディ・グローブによる足掛け8年の総括(前編)

2001年7月2日[BizTech eBiziness]より

 前回の本欄「アンディ・グローブの肉声を聞こう」でご紹介したインテル会長アンディ・グローブの長時間インタビュー(米「Wired」誌が2001年6月号で行なった)を、もう少しきちんと読みながら、私たちが今どんな場所に居るのかを考えてみようと思う。

 インタビューのタイトルは、「Andy Grove's Rational Exuberance」となっているが、これは言うまでもなく、1996年12月にアラン・グリーンスパンFRB議長が当時の株式市場の状況に対して使った「根拠なき熱狂」(Irrational Exuberance)の反対語を意識したものだ。

 まず冒頭で彼は94年から現在までをざっと総括する。本欄「足掛け8年の試行錯誤から学ぶこと」と合わせて読んでみてほしい。

 「I remember being shocked by the Netscape IPO. I was quite familiar with Netscape, and for that company to be valued at $4 billion or $5 billion after it came out - that stunned me. But that shock had a positive impact, because it made me think, Hey, you better rethink your prejudices, because people are seeing something here that you are not seeing. I mean, I thought the browser was an interesting piece of software, but not a life-altering or strategy-altering technology. So 1995 was a wake-up call for me. 」

 やはり総括は、ネットスケープの株式公開(IPO)にショックを受けたという話から始まった。「ブラウザは確かに面白いソフトの一片だとは思ったけれど、そんなものに公開直後に40億ドルとか50億ドルの値がつくのがショックだった」と振りかえる。「1995年はwake-up callだった」と表現している感覚はビル・ゲイツも同じだろう。

 あまり引用ばかりするのも気が引けるので、読者の方はできれば原文のページも開きながら読んでいただきたいが、アンディ・グローブは、「それから1997年までは、インターネットの可能性に興奮して、株式市場とだいたい同じような気分で居た」。そして「98年から99年まで、いくつかのスタートアップ(特にヤフーとアマゾン)により深く関わるようになって、その革新的なアイデアや新しいビジネスのやり方に強いインパクトを受けるに至った」が、1999年から2000年にかけて、だんだんと彼は不快になっていく。

 「And then in 1999-2000, I was starting to get uncomfortable. That was when Intel started buying companies. The irrational exuberance was painfully apparent in the prices we had to pay.」

 ちょうどインテルがベンチャーをどんどん買い始めた時期。彼自身もその買収価格のバブル的高騰に「Irrational exuberance(根拠なき熱狂)」というグリーンスパンの言葉を使っている。

 「Now, I'm probably more optimistic than the market is.」

 そしてこれからについては、「市場が見ているよりも楽観している」ようだ。彼は「これからの5年」についてこう語る。第1に、米国以外の世界中の国々で米国並みのインターネット普及が起こる。第2に、現在はインテルを含むほんの一握りのハイテク企業のみが実現しているB2Bのeコマース(ただそれとて、とてもシンプルな段階だ)が、これからの5年間ですべての企業に波及していく。

 「We started deploying the infrastructure that we have internally and connecting to the infrastructure of customers and suppliers. But we haven't yet touched changing the way we do business internally, affecting things like inventories and payables and design practices and information practices. And other companies are one stage behind us. So what's going to happen in the next five years is that companies that are behind are going to get where we are today, and then start changing their business processes.」

 そして自分達にもやるべきことは膨大に残っていて、これまでに用意したインフラを本当に活用して、ビジネスのやり方を本当に変えるのはこれからなのだという認識である。

 「In the computer industry, you see how Dell has used these efficiencies and turned them into cost-effectiveness and market-share gains. In other industries the same situation is going to take place, and on a worldwide basis. And that is also a very big deal.」

 デルのように効率を極め、それをコスト競争力につなげて市場シェアを高めていく。そういう流れが全世界的に起こっていくと彼はいう。

 私は、昨年10月の日経ビジネスに寄稿した「"米企業のIT化進めた新しい経営観"」の中でデルについて取り上げ、

 『1990年代後半の米国は、ネット新時代の到来とともに、先鋭化された新しい経営観が登場した時代であった。このことは「大企業の情報技術(IT)化」を考える上で、きちんと押さえておかなければならないことだと思う。その意味で、米デルコンピュータという企業が果たした歴史的役割は実に大きかった。「製造業といえども、企業活動そのものがほぼすべてIT化(ネット化)可能である」という仮説が、デルの経営の根底にあった。』

 『逆に言えば、「IT化可能な要素のみを自社と定義し、それ以外の要素はすべて外部に依存し、外部との関係においては合理性を追求し、その管理の知恵も徹底的にIT化していく」という思想である。この経営観ゆえに、デルという企業の姿は、いずれ1個の巨大システムと化してしまうのかもしれず、人が働く環境という意味では、無味乾燥な印象を否めない。しかしデルが、PC産業において圧倒的競争優位を築いた事実は重く、この先鋭化された経営観が正しく執行された暁には、様々な産業において新しい大きな脅威となることが予感された。』

と書いたが、アンディ・グローブは、こういう世界がすべての産業に多かれ少なかれ浸透していく未来像を頭に描いている。

 前回の本欄でも触れたように、彼は「ドットコムは米国大企業の脅威となったことで大企業のネット化を推し進めたわけで、既に歴史的役割を十分に果たした」という見方をしているのだが、その「大企業のネット化」の具体的イメージは、デルが先行するかなり過激な企業イメージなのである。

 そして話題は、ITインフラの話に移っていく。

「I assume you think this correction is a healthy thing? 」(ネットバブル崩壊後の調整は健全なことですよね)という聞き手の質問に対して、アンディ・グローブは、

「I suppose - but the boom was healthy too, even with its excesses. Because what this incredible valuation craze did was draw untold sums of billions of dollars into building the Internet infrastructure.」

と返答する。「ブーム自身もまた健全だった」と。

 ここが非常に重要なポイントである。企業価値の暴騰(incredible valuation craze)、つまりバブルがあったからこそ、インターネット・インフラ構築に莫大な金が注ぎ込まれたではないか(そしてそれは良いことだった)という皮膚感覚なのである。

 続きはまた次回の本欄で。

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