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アンディ・グローブによる足掛け8年の総括(後編)

2001年7月9日[BizTech eBiziness]より

 前回「アンディ・グローブによる足掛け8年の総括(前編)」に引き続き、インテル会長アンディ・グローブの長時間インタビュー(米「Wired」誌が2001年6月号で行なった)をきちんと読みながら、IT革命のこれまでとこれからについて考えてみようと思う。

 前回は、「企業価値の暴騰(incredible valuation craze)つまりバブルがあったからこそ、インターネット・インフラ構築に莫大な金が注ぎ込まれたではないか(そしてそれは良いことだった)」というアンディ・グローブの皮膚感覚を紹介するところで終わった。

 ここから、産業界の中心で存在感を発揮していた彼ならではのコメントが続く。

 「You know, when the information highway was the craze, the question I would ask [then-Bell Atlantic CEO] Ray Smith and [then-TCI chair] John Malone was, Who the hell is going to spend the billions of dollars it will take to build this thing out? You guys? The federal government? 」

 彼は1993年頃のことを話している。ゴア前副大統領が提唱した「情報スーパーハイウェイ構想」が注目を集めはじめたとき、ベル・アトランティックやTCIの経営者に「おい誰がその情報ハイウェイとやらを作る金を出すんだよ。お前らが出すの?それとも国が出すのか?」と尋ねた。ところが「誰が金を出して情報スーパーハイウェイが作られるのか」についての答えを当時誰も持っていなかったと彼は述懐する。

 「Well, it turns out that the answer was the investing public, who rabidly ran and shoved the money into the hands of the infrastructure builders. It is probably true that the infrastructure would have gotten built anyway. But instead of it happening over 15 years, it happened over 5, because of the gold rush mentality and all these investors trying to get in on it.」

 彼は「Investing public」という言葉を使っているが、結局「一般の人々が投資した金」がインフラ構築に寄与したと総括する。「インフラは遅かれ早かれいつかはできたであろうが、15年かかるところがバブルのおかげで5年でできた」と喜んでいるわけだ。

 今、米国は「需要よりも先に、莫大な金をインフラ投資に注ぎ込んでしまった」ということの後始末に苦しんでいる。たとえば、日経新聞5月22日「米地域通信破たん相次ぐ、過剰設備投資響く――新興会社、淘汰の時代に」という記事は米地域通信会社の破綻(ノースポイント・コミュニケーションズ、テリジェント、ウィンスター・コミュニケーションズ)についてまとめているが、「米通信業界ではインターネットブームを受け、設備投資ブームが続いてきた。この結果、昨年9月時点で業界全体の有利子負債は売上高の90%に相当する3000億ドルを突破した」というふうに。

 また、日経新聞6月18日には、レベル3コミュニケーションズのジェームズ・クロウCEOのインタビューが載っている。「過去5年で多くの新興通信会社が登場し、光ファイバーの敷設競争がまだ続いている。」という聞き手の問題提起に対して、クロウは「我々の試算では各社が敷設しているファイバーがフル稼働すると、米通信の回線総容量は現在の70倍に跳ね上がり、過剰感は否めない。ただしファイバーを動かすには、光通信システムを導入しファイバーに『灯』をともす作業が必要だ。コスト的に光システムの導入はファイバー敷設の20倍もの投資が必要で、多くの企業はその資金を調達できない。未使用のまま放置されるファイバー網が大量に出てくると思う」と答えている。

 これからの通信インフラ投資が、これまでのような勢いでは簡単に進まないことを示唆しているわけだ。このあたりのことを踏まえて、アンディ・グローブは、インフラ構築という点について、資金調達が厳しくなった現在に比べ、バブル期は一気にインフラ構築が進んだと比較しているのである。

 アンディ・グローブがいうインフラという言葉の中には、物理的な通信インフラ以外も含まれる。たとえばアマゾンがこれまでに築き上げてきたシステムも、彼はインフラと認識している。

 「When [Merrill Lynch analyst] Henry Blodget projected Amazon would go to $400 and the investing public rushed in, they were funding the deployment of Amazon's infrastructure, which is part of the totality of the Internet infrastructure. And all I can think is, How would this all have happened any other way?」

 アナリストが「アマゾンの株価は400ドルまでいく」と予想したときに「investing public」が金を突っ込んでいったわけで、その結果、インターネット・インフラという大きなインフラの重要な一部としての「アマゾンのインフラ」が作られた。バブルが起こる以外の方法で果たしてアマゾンのインフラが作られたであろうか。逆説的だが、非常に面白い問題提起なのである。バブルで一般大衆が損をしたとしても、その金は、社会に有意義なインフラができるために使われたのだから税金みたいなものと考えたっていいとさえ述べている。

 「I think Amazon is the preeminent pioneer in building a new way of doing commerce: personalized, database-driven commerce, where the big value is not in the purchase fulfillment, but in knowing as much about a customer base of 10 or 20 million people as a corner store used to know about a customer base of a few hundred. In today's mass-merchandising world, that's largely gone; Amazon is trying to use computer technology to re-establish it. They are probably on release 2.0 of what they are doing. They've been criticized for some of their experiments, but 20 million people keep going back, which is a very good sign that what they are doing is working.」

 アンディ・グローブはアマゾンの新しいビジネスのやり方を「personalized, database-driven commerce」と呼ぶ。文中のコーナーストアというのは、住宅街の一角(特に交差点の角)にある食料雑貨店のことだが、こうした小さな地域密着型の店が持っていた「顧客についての深い知識」に相当する顧客情報を、何千万人にも膨んだ顧客ベースに対して保持し個別対応する。だから「personalized, database-driven commerce」のインフラなのだというわけだ。

 また次のコメントは、ニューエコノミー全体に対するシリコンバレーの気分をおよそ総括していると思うので、それを引用(下線は筆者)することでこの稿を終わることにしたい。

 「We are in the process of deploying another package of technology, which is just as significant as the railroads, the telephone, the telegraph, electricity, and so on - all of which were terribly significant. I just don't think it alters the fundamentals of supply and demand, the fundamentals that determine pricing, that determine economic growth. I don't like to mystify what we are doing. It is a hugely significant incremental change we are bringing about, but it's not a phase change. It is not changing water into steam - it is raising the temperature of the water significantly.

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