Muse Associates Pacifica Fund JTPA Mochio Umeda





The Archive

2002/12/07


精神科医の和田秀樹さんが12/6の産経新聞「正論」欄で「うつ病景気をどう克服するか --- 妄想に振り回されず明るい展望持て」という文章をお書きになっている。これが実に面白い。

僕も産経新聞の「正論」の執筆メンバーの一人なので、ちょっと宣伝しておくと、産経新聞のWEB-Sという有料サービスは特に海外に住む私のような者にとってはとても便利だ。新聞紙面に載った情報はすべてウェブで読めるばかりではなく、月額2000円という固定料金で、追加費用を支払う必要なく過去の記事検索がいくらでもできる。産経新聞のスタンスには当然好き嫌いがあるだろうがオピニオンがぶれないので、定点観測という意味で読んでおくにはいい新聞だと、僕は思っている。

さて本題に戻って、和田秀樹さんの「うつ病景気をどう克服するか --- 妄想に振り回されず明るい展望持て」。和田さんは精神科医だが最近経済についても積極的に発言されている論客だ。この文章によれば、Depressionという「うつ病」を示す言葉が不況という経済用語としても使われることに知ったのが、経済に興味を持ったきっかけとのこと。そして今の日本の状況は「うつ病」と酷似しているという。
「特に重要な点は、人間はうつ病になると物の見方が変わるのだが、今の日本の物の見方のパターンはうつ病患者のそれとそっくりということだ。」
「うつ病患者の悲観の修正のために、精神科では客観的事実を用いて、悲観的認知に根拠がないことを知らせたり、彼らの悲観的な将来予測に対して、別の可能性も考えられるようにして、将来が悪いことばかりでないことをわからせる。他の可能性が考えられるだけで、少なくとも絶望状態を脱することができ、自殺の危険性がずっと減るのだ。」
「いい加減にうつ病的な妄想レベルの認知に振り回されずに、明るい展望をもつようにしないと、本当は重病じゃないのに、自殺的行動に走りかねないことを警告したい。」
引用はこのくらいにして、あとは何らかの方法でこの文章をお読みいただきたいと思う。

昨年3月だからもう一年半以上前になるが、僕は当時連載コラムを持っていた日経パソコンで、「マクロで行くか、ミクロで行くか」という文章を書いた。その書き出しを、
「物理的にも精神的にも、シリコンバレーと日本を行ったり来たりしながらの生活を続けていて、最近強く感じることがある。それは、どうして日本の人たちはマクロなことばかりに注目し、どうしてシリコンバレーの人たちはミクロなことばかりに強い関心があるのだろう、ということである。」
という具合に始めた。この文章の中で、シリコンバレーの連中のことを、
『「マクロ的に見てこれからかなりまずいことが起こる」かどうかはまぁどうでもいいと思っているけれど、「自分だけは成功しよう」「自分だけは生き残ろう」というエネルギーだけは充満しているのである。』
と描写したのだが、改めて今思う。日本の、特に若い人は、経済全体や社会全体のこと(マクロのこと)を考えたり議論するのを少し減らして(マクロのことをきちんと勉強しておくことはもちろん大切だ)、自分のこと(ミクロのこと)を前向きに考えるように、気持ちを切り替えたらどうだろう。マクロにはいろいろたいへんなことがあろうとも、自分の周辺についてミクロに考えれば、楽しいことや面白いことや新しい挑戦の機会に溢れているのが現代である。二十年前、三十年前に比べて日本は格段に豊かになっているし、グローバル化した世界には、自分ひとりがたくましく生きていくチャンスなどゴロゴロころがっているのだ。

2002/12/06


求む! エンジニア向けの英語教材」という文章を、日経ソフトウエアの真島馨さんが書いている。

「現場のエンジニアはどうやって英語を勉強しているのだろう。特に英語に強いエンジニアはどんな体験をしてきたのか。筆者は、ソフトウエア開発者にターゲットを絞って英語の勉強法、体験談、海外事情などを取材し、また専門家に執筆を依頼して(頭痛に苦しみながら)記事をまとめた。」

とあるが、その結果が、日経ソフトウエア2003年1月号特集2「必読!開発者のための英語講座」である。残念ながらネットでは読めないが、この特集のPart 3 「I got stuck! (はまった) --- 米国在住プログラマからのアドバイス ---」という文章が最高に面白い。書いているのは、米Adobe Systemsの現役プログラマ・羽田直樹君。羽田君は、こちらの仲間たち皆で作ったJTPAというNPO(「日本人一万人・シリコンバレー移住計画」推進母体)の中核メンバーの一人。同誌に書かれている羽田君のプロフィール紹介には、「妻も、友人も、仕事も、ビジネスも、インターネット経由で獲得。毎週末、オフロードバイクで野山を走りまわる」とある。文には人柄が出るというが、羽田君の明るさ、まじめさ、積極性、オープンネス、皆から好かれる人柄がよく出ているいい文章だ。アメリカ企業で毎日英語を使いながらチームでソフトウェア開発をしている人でなければ書けない内容に仕上がっている。たとえば、今日は疲れたので同僚に明日バグを修正するから、と伝えたいとき

I will fix the bug tomorrow.

I am going to fix the bug tomorrow.

という英語では、同僚は信頼してくれないかもしれない、のだそうです。それはなぜか、じゃあ何と言えばいいかは、この雑誌を読んでみてください。そしてさらに、この「I got stuck! (はまった)」の面白さは、単なるソフトウェア英語の紹介にととまらず、米国ソフトウェア企業の仕事の進め方が文章から垣間見えるところにもあります。

2002/12/04


Harvard Business Review11月号に載った「Moonlighter」というケースが面白い。会社勤めをしながら深夜や休日にアルバイトすることをMoonlightingというが、「部下の優秀なプログラマーがMoonlightingしているのをみつけたら上司としてどうしたらいいのか」という「シリコンバレーのソフトウェア会社」の物語である。

Harvard Business Reviewの実物があれば11月号を、手元に実物がない人は、このケースを6ドルでダウンロードできる。

何が面白いか。

1) まず全体にシリコンバレーの雰囲気がよく出ている。書かれたのが最近だからシリコンバレーの現在の雰囲気もよく伝わってくる。管理職の女性や優秀なプログラマーの生活ぶりの描写など、「そうそう、シリコンバレーって、こういうふうだよな」と感じる箇所が多い。

2) 登場人物が皆、とてもリーズナブルなことを、それぞれの立場から言っている。

3) ケースには、こうすべし、という結論がない。あなたならどうする? という問いかけで終わっている。だからこのケースを全部最後まで読むと、自分が管理職だったら、自分がプログラマーだったら、といろいろと感情移入しながら考えることができる。それでとても悩ましい。末尾についている識者のアドバイスも視点がいろいろだ。

4) つまり3)の考えるという作業(でき得るならばそれを英語で論理構築してみるという作業)を通して、米国のビジネススクールで多用されているケース・メ ソッドとは何かがよくわかる。

5) シリコンバレーのソフトウェア会社で使われている「生の英語」の一部を体感することができる。

といったところです。

是非、このケースを実体験してみてください。


岡本行夫さんが座長をつとめる「対外関係タスクフォース」の報告書、「21世紀日本外交の基本戦略―― 新たな時代、新たなビジョン、新たな外交――」が11月28日に小泉総理に提出された。その全文が官邸のサイトにアップされている。

21世紀日本外交の基本戦略

岡本さんと一緒にあれこれと仕事をしている関係で、岡本さんが精魂込めてこのタスクフォースの仕事をなさっていたのを僕はずっと近くで見ていた。39ページにわたるこの報告書はそのエッセンスだと思う。

僕はこの分野の素人だからあまり偉そうなことはいえないので、少し引用すれば、

「現代の国際社会は、第一に経済と社会構造のグローバル化、第二に軍事力の著しい発展と強力化、第三に中国経済の急速な膨張、という大きな変化のさなかにある。」

で始まるこの提言書は、冒頭で「国益」を、

「日本の基本的な国益とは、第一に日本の平和と安全を維持し続けること。国際平和活動については国際標準に適合できるよう考え直すべきだ。第二に自由貿易体制の維持。WTO体制を補完するものとして、二国間の自由貿易協定(FTA)のネットワークを作るべきだ。第三に自由、民主主義、人権の擁護。これらの価値を一貫して擁護することは日本の義務でもある。第四に学術文化教育を始めとする国民間の交流の積極化と人材育成。」

と定義する。

冒頭の「本報告書の概要」は、

「世界は、米国の極超大国化、中国のダイナミズム、EUの単一国家への流れの中で大きく変化。これから20年間の世界変化は、近代史が経験したどの20年間の変化よりも大きくなろう。新しい世界にあって、日本外交の優先順位も当然再検討されるべきだ。」

と結ばれている。

この報告書は、日本外交、日本を取り巻く国際政治に関して現時点で存在するもっともホットな教科書としても読むことができるのではないだろうか。文章もとてもわかりやすい。

朝日新聞サイトのこの記事 『「外交に長期的戦略を」 タスクフォース、首相に報告書 』 が比較的詳しくこの報告書について触れている。僕のこのサイトの読者の方々には特に、きっととても新鮮だと思います。ぜひご一読を。

2002/12/03


感謝祭休暇はパリに8泊した。僕はパリに行っても特別なことは何もしない。サンジェルマン・デプレ教会の近くの小さなホテルに泊まって、絵を見たり、5区や6区を散歩したり、本を読んでいるだけ。今回は、シリコンバレーや東京ではなかなか気持ちがその世界に入っていけずに読み進められずにいたバルザック「ペール・ゴリオ」を持っていった。最近なぜか19世紀が気になって仕方ないので、バルザックの人間喜劇の世界に没入してみたかった。頭が19世紀のパリと少しはシンクロしてくれたおかげで、帰国してすぐ、平野啓一郎の最新長編「葬送」に取り掛かることにした。新潮社の「立ち読み」サイトで、この本の冒頭が読める。たくさんの登場人物がショパンの葬儀という一つの場面に集まるところをいきなり描写する難解な冒頭で、僕は数ヶ月前に一度挫折したのだが、今回はパリの力を借りて何とかそこを乗り切ったので、2500枚、一気に最後まで読めそうだ。

京大在学中に「日蝕」で芥川賞を受賞した平野啓一郎という「若き才能」(まだ27歳)に寄せる塩野七生のメッセージ がものすごいが、小説を読む前に、自著についてのエッセイや著者インタビューを読むのが苦痛でない人は、

特別エッセイ 『葬送』について
『葬送』の平野啓一郎氏に聞く
Web版新刊ニュース INTERVIEW 著者との90分 『葬送』の平野啓一郎さん

を是非。

2002/12/02


メジャーリーグの名門球団、ボストン・レッドソックスに28歳のGeneral Managerが誕生した(三年契約)。

Red Sox young GM has quite a background (Yahoo! Sports)

こういうニュースに接すると、アメリカという国が、いたるところで若い才能にチャンスを与えつづけていることに、僕はとても勇気付けられる。ニューヨーク・ヤンキースのGM、Brian Cashmanも、98年にGMに就任した時は30歳だった。この記事によれば、レッドソックスのGMに就任したTheo Epsteinは、エール大学在学中からインターンとしてメジャーリーグのフロント業務に従事し、卒業後はサンディエゴ・パドレスで経験を積んだ。その才能やハードワークや野球に対する深い洞察などが、きっと経営者の目にとまったのであろう。「With the Padres, one of his tasks was to learn every team's depth chart of prospects from top to bottom.」とあるから、彼はパドレス時代にメジャーリーグ全球団の配下のマイナーリーグにどんな可能性を持った選手が存在するのかを徹底的に調べて頭にたたきこんだのに違いない。レッドソックスのこれからの補強に要注目である。2004年末にはフリーエージェントとなるメジャーリーグ屈指の二人の看板選手、ペドロ・マルティネス(投手)とノーマー・ガルシアパラ(遊撃手)とどんな契約を交わすのか、はたまた放出するのか、その判断はこの若きGMに委ねられることになる。MLB.comの記事にTheo Epsteinの写真が出ているが、本当に若々しい。

>> Go to Blog Archive

Top
Home > Blog

© 2002 Umeda Mochio. All rights reserved.
contact info@mochioumeda.com